システムを入れても、なぜ現場は「打ち直し」をやめられないのか|建設業の調査データで読む
システムやITツールを入れたのに、現場の入力は減らず、事務所では今日も誰かが情報を打ち直しています。建設業の調査では、導入後も現場への定着や転記・二重入力が課題として残る様子が見えます。この記事では、経営者や管理部門の方に向けて、公開されている調査と企業事例をもとに、打ち直しが減らない構造と、その減らし方を整理します。
システム導入後も、現場への定着と二重入力が残る
業務システムやITツールは、導入すれば入力の手間が減ると期待されがちです。ところが建設業の調査では、導入後にも現場への定着や二重入力が課題として残る様子が見えます。ここでは、導入後、導入前、全社的な活用の広がりの順に確認します。
導入後に残る課題
サイボウズは2026年3月に、建設業従事者(現場責任者・経営・管理職など)1,000人へ調査を行いました。対象は、工務店やゼネコン、専門工事業などの従事者です。その中に、導入したITツールで事務の効率化を進めたあとに、どんな課題が残るかを尋ねた設問があります。ITツールを導入している499人の複数回答は、次のとおりです。

数値を表で見る
| 導入後に残る課題 | 回答率 |
|---|---|
| 現場への定着が十分でない | 42.5% |
| 情報の一元管理・集約に改善余地がある | 29.1% |
| 自社の業務フロー・管理項目に合わない | 23.8% |
| 複数ツールをまたいで情報をたどるのに時間がかかる | 23.8% |
| 他システムへの転記・二重入力が残る | 23.4% |
最も多いのは、現場への定着でした。ツールを入れても、現場で使われる状態にならなければ、転記や二重入力は減りません。なお、この数字は導入した人の中での回答率です。課題どうしの原因と結果の関係までは示していません。
導入前の壁も、同じ方向にある
導入前の状況も見てみます。i-Reporter(シムトップス)が2023年2月に調査を行っています。現場の報告書(帳票)の電子化システムを導入するハードルを、未導入企業の現場監督52人が複数回答で答えました。
| 導入のハードル | 回答率 |
|---|---|
| 紙やエクセル文化からの脱却 | 40.4% |
| システム導入後の現場での浸透 | 38.5% |
| 導入を主導できる人材の不足 | 32.7% |
| 現場作業者のITリテラシーへの懸念 | 25.0% |
40.4%は、Excelを使い続けている割合ではありません。ハードルとして挙げた割合です。また、導入後に紙やExcelへ戻った割合を示すものでもありません。母数が52人と小さく、製品を提供する会社の調査である点にも注意が必要です。
導入前と導入後では、対象者も設問も違うため、数字を並べて比べることはしません。読み取れるのは、方向の一致です。導入前は紙・Excelの慣習と現場への浸透が、導入後は現場への定着が、それぞれ課題に挙がっています。
全社的な活用は約4分の1にとどまる
インフォマートは2026年4月に、建設業会社員1,040人へ調査を行いました。デジタル化・DXの状況を、現場管理とバックオフィスに分けて尋ねています(各領域で単一回答)。全社的に導入・活用している段階以上(データ活用・DXまで実現を含む)は、現場管理で24.2%、バックオフィスで24.8%でした。

一方で、一部導入・試験運用にとどまる回答は、現場管理で27.1%、バックオフィスで40.1%です。検討中・未着手も、現場管理で48.7%、バックオフィスで35.1%を占めます。現場管理は624人、バックオフィスは511人が回答しており、両方に当てはまる人は重複し得ます。
つまり、導入したかどうかだけでは実態は分かりません。どの範囲で使われ、ほかの業務とつながっているかが論点になります。次のセクションでは、その業務間の受け渡しで何が起きているかを見ます。
現場と事務の間で、確認・催促・再入力が起きている
導入状況の次は、日々の業務のどこに負担が出ているかを見ます。以下の数字は、負担に感じる人の割合です。作業時間の長さを表すものではありません。
負担の上位は、確認・催促と再入力
サイボウズの同じ調査(1,000人、複数回答)には、現場作業以外の事務で、時間がかかる、面倒と感じるものを尋ねた設問があります。最も多かったのは、関係各所からバラバラに来る確認や催促の電話等で31.5%でした。次いで、手書きのメモやデータをExcel等へ打ち直すことが29.6%、判断の返答・承認待ちによる現場作業の中断が28.0%です。

一方で、現在あてはまるものはないという回答も27.7%あります。すべての会社で負担が大きいとは言えません。ただ、書く・打つ作業だけでなく、情報を集める、待つ、探す作業も、改善の対象になり得ます。
同じ設問を役職別に見ると、差があります。手書きのメモやデータをExcel等へ打ち直すことを負担とする割合は、現場責任者で38.7%(261人)、経営・部長職以上の管理職で26.7%(150人)でした。現場責任者とは、作業所長・現場代理人・監理技術者などです。現場責任者のほうが12ポイント高くなっています。経営側から見えているより、現場責任者の打ち直しの負担は大きい可能性があります。
請求書・日報は、紙とExcelで届く
情報が次の業務へ渡る入口は、どのような形でしょうか。インフォマートの2023年4月の調査(建設業会社員362人)は、各種書類の受け渡し方法を、書類ごとに複数回答で尋ねています。請求書は、紙で受け渡している回答が37.8%で、全書類の中で最多でした。
| 書類 | 紙 | Excel等 | 専用システム |
|---|---|---|---|
| 請求書 | 37.8% | 24.6% | 14.9% |
| 作業日報 | 35.4% | 22.7% | 10.2% |
複数回答なので、横に足し合わせて合計を出すことはしません。同じ会社の中で、複数の方法が併存している場合もあります。
注目したいのは、書類を受け取ったあとです。紙やExcelで届いた請求書や日報は、誰かが内容を確認し、別のExcelや基幹システムへ入力することになります。受け取ったあとに誰がどこへ転記するかが、次の論点です。
手戻りの原因は、口頭の指示と承認待ち
負担は、やり直しにも表れます。サイボウズの調査で、現場で手戻り(二度手間)が発生する原因を尋ねた設問(該当する724人、複数回答)では、次の回答が上位でした。

数値を表で見る
| 手戻りの原因 | 回答率 |
|---|---|
| 口頭・電話だけの指示が正確に伝わらない | 43.9% |
| 承認・確認の返答待ちで作業が止まる | 29.6% |
| 情報が分散し、必要な情報が見つからない | 25.4% |
| 過去の判断や経緯の記録がなく、根拠が不明 | 23.3% |
これは回答者が原因だと思うものを尋ねた結果で、因果関係を実測したものではありません。ただ、記録に残すべきなのは、入力した内容だけではないことを示唆しています。誰が確定したのか、何を待っているのか、どんな経緯で判断したのかも、残したい情報です。
担当者が情報の隙間を埋める構造と、担当者への依存
ここまでの数字から、現場と事務の間で、情報の受け渡しに人が深く関わっている様子が見えてきました。このセクションは、調査結果を手掛かりにした考察です。断定ではなく仮説として読んでください。
現場の情報をデータにする部分と、ツールをつなぐ部分を、人が担う構造
現場で発生する情報には、作業実績や変更事項、写真、数量などがあります。これらは、口頭、紙、メモといった形で事務所に届くことが少なくありません。記録が不足していたり、伝わり方があいまいだったりすると、管理者が聞き直し、照合してから、Excel等に入力します。入力した情報は、別のExcelやシステムへ再入力・集計されることもあります。

この流れで人が担う負担は、2つに分けられます。1つ目は、現場の情報をデータにする負担です。記録が不足していると、入力の前に確認や催促が必要になります。2つ目は、ツール間をつなぐ負担です。情報が記録されていても、引き継ぐ仕組みがなければ、転記が残ります。この2つは、次のセクションで紹介する改善の2つの方向に対応します。
属人化と情報探しに関する調査
この仮説を考える手掛かりが、サイボウズの調査にあります。仕事上で必要な情報について、誰がもっているか、どこにあるか分からないと感じることがあるかを尋ねています(1,000人、単一回答)。よくあるが12.2%、たまにあるが51.5%で、合計63.7%でした。
また、事務作業の非効率を生む最も根本的な原因を1つ選ぶ設問(同1,000人、単一回答)では、少数の担当者への仕事の集中が20.6%で最多でした。ただし、20.6%は属人化が起きている会社の割合ではありません。原因の認識として1つ選ばれた割合です。

同じ設問で、人・ツール・場所に情報が分散することを選んだ回答は9.5%、紙・FAX中心で情報がデジタル化されないことは6.0%にとどまりました。情報の分断が属人化を進めるという見方は、この調査だけでは確かめられていません。仮説として扱い、自社で確認する必要があります。
情報を一か所にまとめたくても、そろえにくい事情
情報を一か所にまとめれば解決する、と考える人は少なくありません。サイボウズの同じ調査(単一回答)では、現場の情報が一か所に集約され、誰でもすぐ確認できる状態になれば手戻りは減ると思うか、を尋ねています。対象の情報は、案件・原価・図面・写真・連絡・報告などです。とても思うが16.4%、ある程度思うが47.2%で、合わせて63.6%でした。これは期待の割合であり、改善効果の実績ではありません。
ただ、全員が同じ帳票やツールを使う状態にするのは、簡単ではありません。社外では、取引先の提出方法を、自社だけでは変えにくい場合があります。松村組は、協力会社からの請求書を紙のまま受け付け、受け取ったあとの読み取りと登録を効率化しました。
社内でも、同じ情報の使い方は部署ごとに違います。たとえば、現場は日別の作業実績を、経理は月別・案件別の請求額を扱います(編集部の説明用の例です)。画面を1つにしても、案件の対応付けや、承認済みかどうかの判断は残ります。
全員が同じ帳票・ツールを使うことと、必要な情報がつながることは、分けて考えられます。入力方法や見せ方の統一が難しくても、共通の項目と受け渡しを整えれば、つなげる余地があります。
転記だけを自動化しても残る判断
担当者の仕事には、文字を写す作業と、情報の不足を補って次へ進める判断が混ざっています。判断を個人に残したままでは、自動化したあとも、確認がその人に集中する可能性があります。自動化の前に、次の4点を整理しておくと、判断を共有しやすくなります。
- 何を正とするか:案件番号、最新版、確定済みの数値を決めます。
- 誰に確認するか:確認先、承認者、不在時の代行先を決めます。
- いつ次へ進めるか:入力必須項目と、承認・確定の条件を決めます。
- 例外をどう戻すか:不明・不一致・読み取り失敗があったときの戻し先を決めます。
確認や承認を、一律になくすわけではありません。必要な判断と、単純な転記を分けて設計します。
ここまでの調査の設問・回答対象・母数・出典は、レポートにまとめています。担当者の判断を整理する4項目の詳細も入っています。
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情報の入口で分ける、2つの改善方向
改善の方向は、現場の記録が不足しているか、すでにある情報を打ち直しているかで分けると考えやすくなります。取引先や現場の条件に合わせて、2つを組み合わせる場合もあります。ここでは、それぞれの公開事例を紹介します。事例は導入企業や提供会社が公開した内容で、自社で同じ効果が出ることを保証するものではありません。
① 現場で最初からデータとして記録する
電気工事会社の高宮電気(島根県松江市)では、勤怠の打刻に課題がありました。すでに勤怠システム(KING OF TIME)を使っていましたが、スマホでブラウザーを立ち上げる手間があり、現場に直行する日などに打刻漏れが起きていたのです。そこで、社員が毎朝スケジュールの確認に使っているLINE WORKSから、勤怠システムへ打刻できるようにしました。その結果、打刻漏れはほとんどなくなったと報告されています(LINE WORKSの公開事例、2020年5月公表)。打刻漏れの件数や削減率は示されていません。
統計では、Photoructionが2023年9〜10月に行った調査があります。建設業の施工管理担当者209人のうち、デジタルツールを導入した111人では、導入後に業務時間の削減を実感した人が67.6%でした(非常に、やや、の合計)。効率化が進んだ業務は、写真管理が40.5%、図面管理が22.5%、帳票作成が20.7%でした(複数回答、主な3項目)。これは施工管理のデジタルツール全般の効果の実感であり、スマホ単独の効果ではありません。
使い慣れた入口から記録できるようにしたことが、入力の定着を支えたと考えられます。端末を渡すだけでなく、普段の行動の中に入力を組み込む発想が参考になります。
② 届いた情報の転記・二重入力を減らす
建設会社の松村組は、協力会社(契約業者)からの請求書を、紙のまま受け付けています。請求書は、松村組が用意したExcelの書式に入力し、印刷・捺印して提出する運用です。変えたのは、受け取ったあとの処理です。所長が内容を確認した請求書をスキャンし、AI-OCRで読み取って、RPAで自社開発の出来高査定システムへ入力します。読み取りエラーは、情報システム課が修正します。
PFUの公開事例によると、15億円規模の現場で月100枚ほどの請求書を処理する例では、従来2〜3日(各日4〜5時間)かかった作業が、1〜2日(各日30分〜1時間)になりました。これは事例企業の説明です。AI-OCR単独の効果ではなく、システムの刷新やRPAを含む結果である点に注意してください。

紙での提出は維持しつつ、書式を自社のものにそろえたうえで、受け取ったあとの入力を減らしている点が特徴です。
なお、富山県建設業協会の2024年の調査(会員374社)で、AI-OCR・RPAを導入していたのは3社でした。3社とも効果ありと答えていますが、数が少ないため、一般的な傾向とは言えません。
どちらから始めるか
2つの方向の違いは、次のとおりです。
| ① 現場でデータとして記録 | ② 転記・二重入力を減らす | |
|---|---|---|
| 情報の状態 | 口頭・手元のメモにとどまる | 紙・PDF・Excelで届く |
| 方法 | スマホ等で写真・勤怠・報告を記録 | AI-OCRやデータ連携、RPAなど |
| 減らしたい作業 | 後追いの確認、記録漏れ、帰社後の入力 | 打ち直し、重複入力、集計のやり直し |
| 向く場面 | 自社で記録方法を決められる | 取引先の書式など、入口を変えにくい |
現場の記録が不足しているなら①、すでにある情報を打ち直しているなら②、というように改善する場所を選びます。どちらの方向でも、前のセクションで触れた4つの判断(何を正とするか、誰に確認するか、いつ次へ進めるか、例外をどう戻すか)は、共通して整理しておく必要があります。
まず自社で確認する4つの場面
ここまでの内容を、自社に当てはめる方法です。まずは1つの案件を選び、現場から事務へ情報が渡る流れを追ってみてください。確認待ちや手入力が残る場所が、具体的に見えてきます。最初から仕組みを大きく変える必要はありません。小さな範囲で、面倒な部分から整えます。
情報が届かず、催促している場面
案件の中で、誰かが電話やメールで情報を催促している場面を探します。見直しの方向は、誰が、いつ、何を記録するかを決めることです。必要な項目と提出のタイミングが決まれば、催促の回数を減らしやすくなります。
承認や確認が止まっている場面
返答待ちで作業が止まっているところを探します。何を満たせば確定とするのか、誰が承認するのか、承認者が不在のときは誰が代わるのかを整理します。
別のExcelやシステムに打ち直している場面
同じ内容を、複数のExcelや別のシステムに入力していないかを確認します。まず項目名や形式をそろえ、そのうえで転記や集計をつなぐ方法を検討します。
特定の担当者しか処理できない場面
その人にしか分からない確認先や判断基準がないかを確認します。例外の扱いも含めて書き出し、共有できる形にします。
【無料レポート】建設業の情報管理と業務改善|公開調査と企業事例から考える(22ページ)
本記事で紹介した調査と事例は、設問・回答対象・母数・出典をそろえて、22ページのレポートにまとめています。自社の業務に置き換えるための整理(担当者の判断4項目、確認する4つの場面)も入っています。
まとめ
システムを導入しても、現場への定着(42.5%)や転記・二重入力(23.4%)は課題として残ります。背景には、確認・催促や再入力といった現場と事務の間の負担があり、請求書や日報は紙とExcelで届く実態があります。その隙間を、担当者が確認・補完して埋めている可能性があります。改善の方向は、現場で最初からデータとして記録することと、届いた情報の転記・二重入力を減らすことの2つです。どちらでも、何を正とするか、誰に確認するか、いつ次へ進めるか、例外をどう戻すかを先に整理します。まずは1つの案件で、聞き直す・補う・打ち直す場面を確認してください。
出典
- サイボウズ『建設業界における業務効率化の実態調査(2026年)』(2026年5月27日公表):https://topics.cybozu.co.jp/news/2026/05/27-19438.html
- インフォマート 建設業のDXとAI活用に関する実態調査(2026年4月実施):https://corp.infomart.co.jp/news/20260610_6175/
- インフォマート 建設業の実態調査(2023年4月):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000507.000013808.html
- シムトップス(i-Reporter)建設業の現場帳票に関する調査(2023年2月):https://i-reporter.jp/column/9342/
- 富山県建設業協会 令和6年度調査報告書(2024年9〜10月実施):https://www.tomiken.or.jp/data/r06_koyo_keiei_report.pdf
- Photoruction 建設現場のDXに関する実態調査(2023年10月27日公表):https://www.photoruction.com/archives/8786
- PFU デジタラクル 株式会社松村組の導入事例(2023年3月16日公開):https://www.pfu.ricoh.com/fi/digitarakuru/casestudy-0017.html
- LINE WORKS 株式会社高宮電気の導入事例(2020年5月28日公開):https://line-works.com/line-works/cases/tmdk/

