次に9月にローンチされた『匠フォース』についてお伺いさせてください(前半はこちら)。
きっかけは金属加工の中小企業の現場の方々との信頼関係から
Q. まずどういったきっかけで始まったプロダクトなんでしょうか。
金属加工の中小企業とかかわる機会があり、お話を伺ってみると非常に課題が根深いことが分かりました。
製造業は、戦後の日本の経済成長を発展させてきた”誇るべき産業”ですが、一方で目の前に『技術承継』、『国際的な競争力の低下』などの業界としての課題があります。
それだけじゃなく、目の前の業務でも困っていることがたくさんあり、それ一社だけで解決できる問題ばかりではなく、業界構造的な課題が多い印象がありました。
現場の方々とお話させて頂く中で、そういった課題が解決できるのであれば、一緒に事業を作っていきたいと”協力いただける企業様”や”温かく応援して下さる企業様”が現れて、自分たちだったらこういった課題を解決できるかもしれないと感じたのが事業を始めようと思ったきっかけです。
事業の初期段階は徹底的なヒアリングを行った
Q. 事業開始時はどんなアプローチを行ったのでしょうか。
最初は各企業のお問い合わせフォームから問い合わせするとか、電話で連絡するといった形でした。
Q. プロダクトがない初期段階ではどのような形で話を持っていくのでしょうか
最初は何が課題かもわからないので「課題を知りたくて・・・」と連絡したこともあります。ただ、数社からお話を伺うといくつか課題仮説が出てきて、さらにもう少し進むと「こういう課題に対して、こういう解決策があると思っているがどうか」といった解決策の仮説を当ててみて、といった形で進めていきました。
Q. 事業開発の初期段階ではヒアリングをすること自体も工夫が必要だと思いますが、おっしゃるやり方だと困っている経営者も多くて話は引き出せるものなのでしょうか。
この業界の自分たちが見えてきた課題に絞ったときには、反応を下さることが多かったです。金属加工の中小企業にとって大きな課題だということが分かりました。
ヒアリングの中で見えてきた3つの課題
Q. それは具体的にどんな課題だったのでしょうか。
中小製造業で多品種少量生産を行っている企業様ですと、①見積・値決めの業務、②技術承継、③品質管理の3点があがることが多かったです。
Q. その中で御社が解決しようとしているのはどの課題になりますか。
見積と技術承継、品質管理になります。基本的には見積業務をサポートするものなのですが、見積自体も技術が必要となる業務ですので、一部、技術承継も解決できるものとなっています。そして活用し続けていただくと、そのノウハウが蓄積されていく”ナレッジデータベース”になっていますので、品質管理の問題も解決できます。
Q. 事業の進め方として、まず先に見積業務の解決に絞るところから始めたのでしょうか。
基本的には、仮説を持ちつつも、課題は山積しているので、まずはフラットに洗い出して、模索していく形でした。
100社以上を廻って見えてきたプロダクトの形
Q. 延べ訪問数はどれくらいになるのでしょうか。
1年間で延べ100社は超えているかと思います。
Q. 課題の深堀と並行してモノを作っていく工程はいつぐらいから始めたのでしょうか。
プロトを最初にお客様にお見せしたのは事業を開始してから4か月後くらい。
それまでは課題と解決策の解像度を上げていくために時間を使っていきました。
Q. 解像度を上げていくというのは具体的にどんなアクションになるのでしょうか。
最初のフェーズでは、ひたすらヒアリングしていく。すると経営者が共通して口にする課題が見えてきました。
ただ、口にする課題と現場の業務・現場の課題が異なる場合もあるので、実際に現場を見せて頂いたり、業務を体験させて頂いたりしました。
Q. 最初に形にする(プロトタイプを作ってテストする)までの期間、ヒアリング、観察、業務の体験の中でどこに最も多く時間を使いましたか?
まずは話を聞いて、とにかく仮説の精度を上げるのに最も時間を使いました。究極、プロトタイプは、作らないで検証できたらそれが最も良い。例えば、検証したいことがスプレッドシートで検証できるのであればそれが最も良い。究極作る時間をゼロにして何を作るかだけを明確にするのが初期の段階では有効かと思います。
・金属加工の中小企業の方にお話を伺う以外に、課題を明確にするために行ったことはありますか?
投資家の方や他の起業家の方など、業界に関係ない方にもアドバイスをもらいにいったりしました。業界のバイアスは必ず存在するので、バイアスを排除するような頭の使い方を出来ないかといったことを考えていました。こういうものの見方もあるよねという発見もありました。
しかしローンチを半年間延期
Q. 4か月後にプロト作成に着手してからはどんなアクションが必要になるのでしょうか。
プロトタイプも色んなレベルがあると思っていて、最初作ったのはほんと紙芝居のようなもので、そこからデザインツールFigmaで動くものを作ったり、そこから少しずつ実装という流れでした。
そして実は、元々このサービスに着手してから1年のタイミングでローンチを考えていたのですが、これでリリースできるだろうと思ったところから、プロダクトを作り直す決断をしました。最終的に、1年半後にローンチしました。なかなか思うように進まなかったというのが今となっては反省です。
Q. なぜ作り直しを決断されたのでしょうか。
理由は大きく3つあります。
1つは、完成したプロダクトを使うお客様の業務フローを想定したときに、現実的に難しさを感じた点。
2つ目は、データの持ち方、データモデルといった技術的な面。このまま作りこんでいくと技術的な負債が大きくなってしまうと感じました。
3つ目は、機能を増やしすぎた点。お客様からお話を伺っていくとあれも欲しい、これも欲しいとなって機能が盛りだくさんになっていってしまいました。
最終的には究極にシンプルなものになるよう削ぎ落としていきました。
Q. 具体的にお客様からはどういった反応があったのでしょうか。
例えば、Figmaで紙芝居的なモノを作って見せたときには良い反応が得られてたんですが、実際に作って、動くものを触ってもらうと全く反応が違ったり。
無料で使っているお客様と有料で使っているお客様のフィードバックの本気度は違いまして。無料だと「いいね」「こんな機能がほしい」となりますが、お金払って使うとなると「こういう機能がないと使えない」「じゃあいらない」のようなシビアなご意見を頂くことも多く。。。
これで行こうと思っていたプロダクトをお客様が全然使ってくれないということが発生しまして、理由を聞いても「んー・・・。でも使えるよ」とは言ったくれるんですが、このままではだめだと感じて、再度作り直すことを決断しました。
開発を止めて1から再スタートを切った
Q. その後再ローンチまでどんなふうに進めていきましたか?
まず開発全部止めて、仮説検証を1からやるという気概でエンジニアも含めて現場にいって一次情報とりにいきました。
それまではどちらかというとビジネスサイドがヒアリングを行い、エンジニアサイドは開発メインで行っていきましたが、もっと業務に自分たちが入っていくというスタンスにしました。
Q. 一度止めたあとは特にどんなところを意識して進めましたか
『本当に顧客の思考に憑依すること』にとにかく注力しました。
業務フローの整理ではダメで、動作を理解しただけでも甘く、ユーザーの思考がトレースできなければいけません。
究極、入力する情報が同じなら、『入力しやすいフォーマット』『しにくいフォーマット』を分けるのは、お客様の頭の中でどんな情報が往復しているかまで想像できていないと何がいいかを判断できません。
特にITに苦手な人を対象にした直観的なプロダクトを作ろうと思うとそうした思考の部分まで理解していないといけないんです。
見積りは図面外の情報が多いため属人化が起きていた
Q. それを踏まえてどういったプロダクトを作っていったのでしょうか。
対象は金属加工の中小企業様、部品を作っているようなメーカーさんの見積をサポートするプロダクトです。
金属加工の中小企業様のお見積りは、多くは発注主から送られてきた図面を見ながら「いったいこの部品はいくらで作れるのか」を算出する業務です。
Q. 今まで行ってきた膨大なヒアリングなどから見積にはどういった課題があると見えてきたのでしょうか。
大きく言うと”属人化”と”どんぶり勘定”の2つです。
少し前提からお話しするとまず、前提として見積というのは経営に大きなインパクトを与える業務です。
例えば、原価低減をいくら頑張っても見積がずれるとその努力がパーになってしまいますよね。
そしてその見積業務を今できるのは社長、工場長やその企業の営業担当者などのみに限定されていました。
今のコロナ禍では”A社を担当している人が休むとその企業からの案件の見積が出来ない状態に陥る”といったことが起こり得ます。
さらに、原材料費の高騰もある中で、経験と勘でえいやで決めてしまっているという場合も多く見られました。これでは、赤字黒字の判断が出来ません。ちゃんと利益が出る見積・値決めをするためには、過去の案件や仕入れも考慮して値決めをする必要があります。
Q. なぜ属人化が起こるのでしょうか。
1つ目は図面外の情報が多いことです。
金属加工業界の商習慣として、図面だけでは不足している情報をお客様とすり合わせて決めていくというものがありました。図面にはこう書いてあるけど、このお客さんにはこうするのが正解といった”直接話した人しか分からない図面外の情報が多い”のです。
2つ目に、原価(社内の加工時間)を見積るのが難しいためです。社内の人手の状況や案件の状況を加味しながら決定していくため長年の経験がなければ出来ないという状態が発生していました。
Q. 御社のプロダクトはそういった課題をどのように解決してくれるものなのでしょうか
『匠フォース』のシステム上でお見積りをしていただくと、その情報がたまっていきます。そしてたまっていった過去の見積実績を参照して、今回の見積に反映させていくことができるようになります。
その他にも製造実績のデータも記録可能となっています。
またAIで図面の一致率を測定し、過去の類似案件を紹介してくれたり、過去の図面との差分を表示してくれたりする機能も実装予定です。
このように今まで特定の誰かの頭の中に蓄積されていたノウハウを、システム上で情報として蓄積し、属人化の脱却と見積り業務自体をよりしやすくするためのサポートを出来るようにしたのが『匠フォース』です。
モノづくりに関わる人の努力が正当に報われるために
Q. 最後に『匠フォース』はどんな人に使ってほしいとお考えでしょうか。
いわゆる日本の中小の部品メーカーの方に使っていただきたいです。
我々は、日本のモノづくりを飛躍させていきたい、モノづくりに携わっている人に豊かに・幸せにしたいと考えております。
彼らの努力が正当に報われる世の中を作っていきたいです。
ぜひ共感していただける方にパートナーとしてご協力頂きたいです。
どんな質問にも的確に誠実に答えてくださる姿が印象的な前田さん。
彼らの提供する『匠フォース』についての詳細は以下のリンクから問い合わせできます!
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