現場から「人が足りない」と突き上げられ、慌てて求人票を作成する。
そんな“場当たり的な採用”を続けていませんか? 現場の声を鵜呑みにした採用は、時に「存在しないスーパーマン」を追い求め、膨大な時間とエージェント費用を浪費させる結果を招きます。
真に強い組織を作るのは、優秀な個人ではなく、明確に定義された「機能」の集合体です。
本記事では、事業計画から逆算して「今、組織に足りないピース」を特定し、最小のコストで最大の成果を出すための実践的な3ステップを解説します。
多くの企業が陥る採用戦略の落とし穴とは
採用がうまくいかないとき、多くの企業はまず「求人媒体を変えよう」「もっと条件を上げよう」と考えます。もちろんそれも改善策の一つですが、採用戦略にはもっと手前に考えるべき前提があります。問題の根本は、採用の出発点そのものにあるかもしれません。
「どんな人が欲しいか」から始めてしまう採用の問題点
採用を進めるとき、最初に出てくる問いが「どんな人が欲しいか」になっていないでしょうか。
営業ができる人、
コミュニケーション力がある人、
マネジメント経験がある人。
こうした人物像を先に決めて、そこに合う候補者を探しにいくのが、多くの企業で当たり前になっています。
特に多いのが、「今、人が足りないから」「現場が忙しいから」「既存メンバーが大変そうだから」という理由で、今すぐ欲しい人を急いで募集してしまうパターンです。しかし、言い方は厳しいかもしれませんが、忙しくても現場は回っています。
緊急の人手不足を埋めるための採用と、事業を成長させるための採用は、本来まったく別のものです。
大切なのは、事業の方向性や成長目標の中で、今の組織に足りない機能は何かを考えることです。そしてさらに重要なのは、来てもらった人に具体的に何をお願いするのか、どんな役割を担い、どんな業務を遂行してもらうのかを明確にすることです。この定義がないまま「なんとなく人が足りない」で採用を始めてしまうと、入社後にお互いが困ることになります。
本来、採用を進める上でまず最初に考えるべきは人ではなく組織です。事業の方針や今後の目標に対して必要な組織の形を考え、その中で足りない機能を特定し、さらにその中で人が解決すべき部分を定義する。このプロセスを経て初めて、どんな人材が必要かというターゲット像が明確になります。
採用ミスマッチが生まれる構造的な原因
採用ミスマッチは、面接の精度が低いから起きるのではありません。そもそも「何のためにこのポジションが存在するのか」が定義されていないから起きるのです。
組織の中での役割が曖昧なまま採用すると、入社した人は何を期待されているのかがわかりません。期待される成果が明文化されていないため、上司と本人の間で認識のズレが生まれます。結果として「思っていた仕事と違った」「期待した活躍をしてくれない」という不満が双方に蓄積していきます。
これは採用した人の能力の問題ではなく、組織としてそのポジションに求める機能を定義しないまま人を当てはめた構造の問題です。採用ミスマッチの多くは、選考プロセスではなく、採用の前段階である組織設計の欠如に原因があります。
「今欲しい人」をそのまま募集してしまうことが招く3つの悪循環
目の前の人手不足を埋めるために「今欲しい人」をそのまま募集し続けると、単発の失敗では済みません。組織全体に悪影響が連鎖し、抜け出しにくい悪循環に陥ります。ここでは、その典型的な3つの負のスパイラルを解説します。
現場が求める「理想の人材」に振り回される
「今欲しい人」を起点に採用を考え始めると、現場からの要望がそのまま採用基準になります。「即戦力が欲しい」「リーダーシップがある人がいい」「うちの文化に合う人」。こうした要望はどれも間違いではありませんが、事業の成長戦略や組織全体の設計と紐づいていないため、要望が際限なく膨らんでいきます。
その結果、存在しないような理想の人材像が出来上がります。営業力もあり、マネジメントもでき、新規事業の立ち上げ経験もある。こうしたスーパーマンを求める求人では、当然ながら候補者は見つかりません。見つかったとしても、採用条件が高くなりすぎて中小企業の給与水準では獲得できないケースがほとんどです。
さらに問題なのは、この理想の人材像が部署や面接官によって異なることです。営業部長は突破力を求め、管理部門はバランス感覚を求め、経営者はビジョンへの共感を求める。統一された採用基準がないまま選考が進むため、最終的に「なんとなく良さそうな人」を採用してしまいます。
採用コストが膨らみ続けても成果が出ない
「今欲しい人」ベースの採用では、うまくいかない原因を「母集団が足りない」「媒体が合っていない」と考えがちです。その結果、新しい求人媒体を追加し、採用広報に予算を投じ、エージェントへの紹介フィーを上乗せする。採用コストは右肩上がりに膨らんでいきます。
中小企業の採用コストは一人当たり数十万円から、エージェント経由では100万円を超えることも珍しくありません。しかし、組織として何の機能を補うための採用なのかが不明確な状態では、どれだけコストをかけても的外れな候補者を集めることになります。
採用マーケティングや採用広報は重要な施策ですが、それはあくまで手段です。組織としてどんな機能が足りないのかを定義しないまま手段を増やしても、コストだけが積み上がり、採用の成果にはつながりません。採用方法を見直す前に、採用の前提となる組織設計を見直す必要があります。
採れた人が定着しない組織になっていく
「今欲しい人」を急いで採用した場合に最も深刻なのは、採用した人が短期間で辞めてしまう問題です。組織設計なき採用では、入社後にその人が担うべき役割や成果の定義が曖昧です。「とりあえず来てもらって、できることからやってもらおう」という状態になりがちです。
優秀な人ほど、自分が何を求められているのかが不明確な環境にストレスを感じます。成果の基準がないため正当な評価も受けにくく、「ここにいても成長できない」と判断して早期に離職してしまいます。
こうなると、また新たに採用をかけなければなりません。しかし、同じように「今欲しい人」を起点に考え、同じように役割を定義しないまま採用する。この繰り返しが、採用コストの増大と組織の疲弊を同時に引き起こします。採用難に悩む中小企業の多くが、実はこの悪循環の中にいます。
採用戦略の起点は「組織設計」にある
では、どうすれば「今欲しい人」ベースの採用から脱却できるのでしょうか。答えはシンプルです。採用を考える前に、まず組織を考えることです。ここでは、組織起点で採用戦略を立てるための3つのステップを順に解説します。
事業方針から組織を描くという発想
最初に行うべきは、事業の方針と今後の目標を明確にすることです。向こう1年から3年で売上をどこまで伸ばすのか、どの事業領域に注力するのか、どの市場に進出するのか。この事業方針が、必要な組織の形を決定します。
たとえば、既存事業の売上を1.5倍にする方針であれば、営業組織の拡大が必要かもしれません。一方で、新規事業を立ち上げる方針であれば、企画やマーケティングの機能が必要になります。事業方針が違えば、必要な組織の形はまったく異なるのです。
ここで重要なのは、現在の組織図をベースに考えないことです。今の組織は過去の事業方針に基づいて作られたものであり、今後の目標に対して最適とは限りません。ゼロベースで「この目標を達成するために、どんな組織が必要か」を考えることが出発点になります。
組織の中で足りない「機能」を定義する
事業方針に基づいた理想の組織像が描けたら、次に現在の組織と比較して足りない機能を特定します。ここで言う機能とは、部署名や役職名ではありません。「顧客の声を製品改善につなげるフィードバック収集機能」「新規顧客への初回提案から受注までを完結させる営業機能」のように、具体的な業務の成果で定義します。
機能を具体的に定義することには大きなメリットがあります。たとえば「マーケティング機能が足りない」という抽象的な認識と、「月間50件のリードを獲得し、そのうち20件を商談化する機能が足りない」という具体的な認識では、その後の打ち手がまったく変わってきます。
後者であれば、その機能を実現するために何が必要かを具体的に考えることができます。Web広告の運用なのか、コンテンツマーケティングなのか、展示会への出展なのか。機能の定義が具体的であればあるほど、次のステップでの判断が正確になります。
機能の中から「人が担うべき領域」を切り出す
足りない機能を特定したら、すぐに「では人を採ろう」と考えてはいけません。その機能を実現する手段は、人の採用だけではないからです。
たとえば、経理業務の処理速度が足りないのであれば、会計ソフトの導入やアウトソーシングで解決できるかもしれません。データ分析の機能が必要であれば、BIツールの導入で現在のメンバーでも対応できる可能性があります。業務プロセスの見直しや自動化によって、新たな人員を必要としない解決策が見つかることは少なくありません。
こうした選択肢を検討した上で、それでも人が担わなければならない領域が残ったとき、初めて採用という手段が選択肢に入ります。そしてここで重要なのが、来てもらった人に何をお願いするのか、具体的な役割と業務を明確に定義することです。このプロセスを経ることで、採用基準は「なんとなく欲しい人物像」ではなく、組織の機能要件に基づいた明確なものになります。
組織起点の採用基準の決め方
組織設計から落とし込まれた機能要件がある状態で、初めて採用基準を設計するフェーズに入ります。ここでのポイントは、従来の人柄やカルチャーフィットを中心にした採用基準から、機能要件を軸にした採用基準へと転換することです。
採用基準を「人柄」ではなく「機能要件」で定義する
採用基準の決め方として多くの企業がやりがちなのは、「コミュニケーション力」「主体性」「協調性」といった抽象的な人物要件を並べることです。これらは一見重要に思えますが、面接官によって解釈が異なり、評価のブレが大きくなります。
組織起点の採用基準では、そのポジションが担う機能から逆算して要件を定義します。たとえば「月間20件の新規商談を創出する」という機能を担うポジションであれば、採用基準は「新規開拓営業の経験3年以上」「テレアポやメールでのアウトバウンド営業の実績」「CRMツールを活用した案件管理の経験」のように、具体的で検証可能な項目になります。
このように機能要件から採用基準を定義すると、面接での評価にもブレが生じにくくなります。「この人はうちに合いそうか」という曖昧な判断ではなく、「この機能を遂行できる能力とスキルを持っているか」という明確な基準で選考を進められるのです。
採用フローを組織設計と連動させる方法
採用フローも、組織設計と連動させることで精度が上がります。一般的な採用フローは「書類選考→一次面接→二次面接→最終面接」という画一的な流れですが、ポジションごとに求められる機能が異なるのであれば、選考方法も変わるべきです。
たとえば、企画機能を担うポジションであれば、面接だけでなく課題提出型の選考を組み込むことで、実際の思考力やアウトプットの質を確認できます。技術的な機能を担うポジションであれば、実技テストやポートフォリオレビューを設けることが有効です。
また、面接で確認すべき項目も機能要件から逆算して設計します。「前職でどんな仕事をしていましたか」という漠然とした質問ではなく、「月間の新規商談件数はどのくらいでしたか」「その成果を出すためにどんなプロセスを組みましたか」のように、機能の遂行能力を直接確認する質問を用意します。採用フローの各段階で何を見極めるかが明確になるため、選考全体の精度と効率が向上します。
組織起点の採用計画の立て方
組織設計から採用基準まで固まったら、最後に採用計画に落とし込みます。ここでは、事業計画から逆算した採用計画の作り方と、採用方法の選び方について解説します。
採用計画を事業計画から逆算するステップ
採用計画の立て方で最も重要なのは、事業計画との連動です。具体的には以下の順序で考えます。
まず、事業計画から必要な組織体制を定義します。来期の売上目標を達成するために、どの部門にどれだけの機能が必要かを洗い出します。次に、現在の組織でカバーできている機能と、不足している機能を比較します。不足機能のうち、ツール導入やアウトソーシングで対応できるものを除外し、人の採用で解決すべきものを特定します。
その上で、採用の優先順位を決めます。すべてのポジションを同時に採用する必要はありません。事業へのインパクトが大きい順に並べ、採用時期を設定します。四半期ごとの事業目標と照らし合わせて「いつまでに、どのポジションが稼働している必要があるか」を逆算すれば、採用活動の開始時期も自ずと決まります。
このように事業計画から逆算することで、「なんとなく人が足りないから採用する」という場当たり的な採用から脱却できます。
採用方法・採用広報は最後に決める
採用方法の種類は数多くあります。求人媒体、人材紹介、ダイレクトリクルーティング、リファラル採用、SNS採用など、選択肢は豊富です。しかし、これらの手段をどれにするかは、採用プロセスの最後に決めるべきことです。
なぜなら、採用方法は「どんな人材に、どうリーチするか」という手段の話だからです。どんな人材が必要かが明確でなければ、最適な手段も選べません。たとえば、特定の専門スキルを持つ経験者を採用したいのであれば、その領域に強いエージェントやダイレクトリクルーティングが適しています。一方、ポテンシャル採用であれば求人媒体やリファラルの方が効率的かもしれません。
採用広報も同様です。採用広報は企業の魅力を発信する活動ですが、「誰に届けるか」が定まっていなければ、発信する内容も定まりません。組織設計から落とし込まれた人材要件が明確になって初めて、その人材に響くメッセージを設計できるのです。
手段から入ってしまうと、「とりあえず採用サイトをリニューアルしよう」「SNSで発信を始めよう」と施策が先行し、本質的な課題が解決されないまま時間と予算を消費することになります。組織設計→機能定義→人材要件→採用方法という順序を守ることが、採用戦略を成功させる鍵です。
まとめ
採用戦略の成否を分けるのは、求人媒体の選び方でも面接テクニックでもありません。「今欲しい人」をそのまま募集するのか、それとも事業の成長に必要な組織を描いた上で採用に臨むのか。この出発点の違いです。忙しいから、足りないからと急いで人を採ると、理想の人材像への迷走、採用コストの膨張、早期離職の連鎖という悪循環を招きます。組織起点の採用戦略では、事業方針から必要な組織を描き、足りない機能を特定し、来てもらった人に何をお願いするのかを明確にした上で採用基準を設計します。採用方法や採用広報といった手段は、この思考プロセスの最後に決めるものです。まずは自社の事業方針を見つめ直し、今の組織が目標達成に最適な形になっているかを検証するところから始めてみてください。

